腹責エンド
(甘さ:★・・・・)
『こんなに胃液を吐き出して……
ちゃんと水分をとらないと脱水症状を起こしてしまうぞ』
俺はスポーツドリンクのボトルを取ってきて、
甲斐の方に飲み口を向けた。
「…テメェ…何企んでやがるっ!」
『お前の健康を考えて、飲ませてやろうって言ってるんだ。
何も考えず、さっさと口を開ければいいんだよ!』
そう言って、甲斐の鼻をつまんで無理矢理口を開けさせると、
飲み口を突っ込んで、ボトルをギュッと押し潰した。
「んぐぉっ!?」
『ほら、どんどん飲まないと、
スポーツドリンクで溺れ死ぬことになるぞ』
「ングッ、ングゥォッ!!」
甲斐の喉仏が何度も上下に動き、
流し込まれるスポーツドリンクを腹の中に収めていく。
俺は、一リットル以上入るドリンクホルダーが空になるまで、
甲斐に一気飲みさせ続けた。
「んごっ!んぐっ!うっ……ゴホッ!ゴホォォッ!!」
『おっと、飲み干したそばからリバースするなよ』
「ハァッ…ハァッ…ぐ、ううっ…腹が、苦しいっ…」
甲斐はうつむいて、たぷたぷに膨らんだ腹を、
苦しそうな顔で見つめている。
そんな甲斐を尻目に、俺は、
誰が履いていたか分からない汚いアンストを床から拾い上げた。
「うぐっ、臭ぇ!?んなもん、近づけんなっ!!」
元は白かったはずの強烈な汗臭さを放つアンストで、
甲斐がさっき吐き出した胃液を拭う。
大胸筋に張りついた大量の汁が、汚れた布地に吸い取られていく。
「テメェ、さっきから訳分かんねぇことばっかしやがって、
どういうつもりだ!」
『俺の目的は明確だぞ……お前をもっと苦しめる、ただそれだけだ』
「っ!?ムグゥゥッ!!?」
不意を突いて、甲斐の口の中にアンストをねじ込む。
胃液の酸っぱさと、誰のモノとも分からない男の汗の味が、
甲斐の口内を占拠する。
「ン゛グェッ!!ンングッ、ン゛ッ!?」
『すぐにでも吐き出したいだろうが、そうはさせないぞ』
吐き出そうとする甲斐の動きを封じるように、ガムテープで口を塞ぐ。
「ン゛ゥゥッ!!」
『苦しいよな。他人の靴下を口に押し込まれて、フタまでされて……
だが、まだ終わりじゃないんだぞ』
俺は、苦悶の表情を浮かべる甲斐をその場に残し、
室内に転がったボールをかき集めて、ピッチングマシンの所に行った。
『知ってたか?このマシン、もっと急速を上げられるんだぞ。
今までは練習用の120キロに設定してあったから、
まずは……140キロくらいで試してみるか?』
「ッ!?ンッ、ンンッ!!」
甲斐が何か叫んでいるが、口を塞がれていては言葉にならない。
『さて、行くぞ……プレイボール!』
俺がそう言うと、ピッチングマシンがうなりを上げて、
甲斐の腹筋へと真っ直ぐにボールを投げた。
シュゥゥゥッ……ドスゥゥゥゥゥゥッ!!!
「ン゛ッ、ゴォォォォォォォッ!!!!」
狙い通り、割れた腹筋に突き刺さったボールが、
さっき大量に飲ませたスポーツドリンクで膨らんだ胃を押し潰す。
胃液が食道を駆け上がり出口を求めて、
口内に充満しているのが、膨らんだ頬で分かる。
「んぅぅぅっ!!?」
『吐き出せなくて残念だったな……
口に溢れた胃液は、全部飲み込むしかないぞ』
「ぐっ、ンンンッ……ゴックゥゥゥッ……」
スポーツドリンク味の胃液を再び飲まされる苦痛と屈辱に、
甲斐は項垂れ、その顔は悔しさに歪んでいた。
『そうやって前傾していると、ボールが脳天に突き刺さるぞ。
それでもいいのか?』
「ぐっうううっ……」
顔を上げさせた後で、ピッチングマシンに次の投球を指示する。
『お次は150キロだ……失神するんじゃないぞ!』
「っ!?」
上下のローラーがさっきより早く回転し、速球を送り出す。
シュゥゥッ……ドゴォォォォォォォッ!!!!
「ン゛ッ、ぎっぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
甲斐の身体が折れ曲がる。
腹筋に深々とめり込んだボールが、甲斐の内臓をえぐる。
胃から拭き上がった濁流の勢いは、喉仏の動きからも見て取れた。
『おいおい泣きそうじゃないか?そんなに苦しいのか?』
「ンッ、うううううっ……」
溢れてくる胃液を必死で飲み干す甲斐の目には涙が溜まっていた。
腹筋に剛速球を投げ込まれる激痛と、
吐いた胃液を腹の中に飲み下す苦痛が、甲斐を追い詰めていた。
『そんなに辛いなら、あと一球で終わらせてやる。
……160キロ超のデッドボール、その自慢の腹筋で受けてみろよ!』
「っ!?」
このピッチングマシンが出せる最速に設定する。
聞いたことのない音を立てながらローラーが回り始め、
最後の一球を、ものすごいスピードで放った。
シュッ…ズドォォォォォォォォォォォォォンンンッ!!!!
「ン゛ン゛ッ!!?ぐっおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
甲斐のバッキバキの腹筋に、穴が開いたのかと思うくらい、
ボールが背骨まで達するほど、深々とめり込んだ。
鳩尾を狙った剛速球に押し潰され、甲斐の胃が爆ぜる。
そこから噴き出る胃液の濁流は、ガムテープの粘着力を凌駕した。
「ごっ、はぁっぁぁっっ!!」
甲斐の口から、胃液まみれのアンダーソックスが吐き出され、
床にビチャリと音を立てて叩きつけられた。
その後を追うように、飲ませたスポーツドリンクの臭いがする胃液を、
次から次へと吐き出していく。
「ぐっえええぇぇっぇっ!!ぐげぇぇぇぇぇっ!!」
『全部吐き出していいぞ……
その嘔吐の苦しみを与える為に、飲ませたんだからな』
「ッ…んぐぅぇぇっ!!ゲホッ…ゲホォォッ……」
時折むせながら、止め処なく胃液を垂れ流す甲斐の目からは、
苦しさと悔しさの涙が溢れ出し、
全ての吐瀉物を吐き終えると、力尽きたようにガクッと項垂れた。
『失神したか。
無理もないな、あんな球を腹筋で受け止めて、無事な方が変だ』
俺はそう呟きながら、
甲斐の手足を縛るガムテープを切って、その拘束を解いた。
「……それを待ってたんだよ、オレは!」
『な、にっ!?んぐっ!?』
甲斐の手のひらが俺の口を塞ぐように、顔を鷲掴みにした。
そして、そのままぐいぐい押され、後ろの壁に押し付けられる。
「テメェ……オレにあんなことして、ただで済むと思ってねぇよな?
まあ、オレは、ピッチングマシンなんて使わねぇが……」
『っ!?』
甲斐は、俺のアンシャツの首元に手を掛けると、
上に着ているユニフォームごと、片手で軽々と引き裂いた。
そして、露わになった俺の腹筋を撫で回す。
「オレほどじゃねぇが、テメェもなかなか鍛えてんじゃねぇか。
……だが、どんだけ鍛えても効くところがあるって知ってっか?」
『…っ……』
「この辺りを殴るとな……息ができねぇぐらい痛ぇんだ!」
ドスゥゥゥっ!!
『んぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!!?』
右脇腹に甲斐の拳が突き刺さる。
強烈なレバーブローを食らった俺は、甲斐の言った通り呼吸困難に陥る。
「どうだ、マジで息できねぇだろ?
……そんでこれが、喧嘩慣れしてねぇヤツだと、
すぐにゲロっちまう殴り方だ!」
ドムゥゥゥゥッ!!!
『ウッ!?ぐっえええっ!!!』
鳩尾を打ち上げるようにめり込んだ拳が、俺の胃をピンポイントで潰す。
食道を上がってきた大量の胃液が、
俺の口を押さえる甲斐の指の間から、びちゃびちゃと漏れ出す。
「汚ぇな……もっかい息止めてやっか!」
甲斐の拳が容赦なく俺のレバーを狙って撃ち込まれる。
ドゴォォォォォッ!!
『んんぐっ!?』
「おらっ、胃液でうがいでもしとけよ!」
息ができず、胃液を飲み込めくなった俺は、自分の吐いた胃液で溺れる。
涙を流し始めた俺を嘲笑うかのように、
甲斐は再び鳩尾を殴って、胃を捻り潰した。
ドッムゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
『ふぐっおおおおおっ!おっええぇっぇぇっ!!!』
駆け昇る胃液が、甲斐の手によってせき止められ、
再び胃へと戻ろうとするが、甲斐はそれを許さず、
まるでポンプを押すかのように、俺の鳩尾を何度も何度も殴りつけた。
「おらっ!おらっ!どうだっ!」
ドスゥゥッ!!ドムゥゥゥッ!!ドゴォォォォッ!!
『んぐぇっ!!ぐっおおおっ!!ふぐぁああぁっっ!!』
時折レバーブローを打ち込み、胃液うがいで俺を泣かせながら、
甲斐は、俺の腹筋を内蔵ごと捏ね回すように拳を打ち込み続けた。
「さっきはオレの腹筋を散々苛めてくれやがったからな……
胃液吐く時も、オレより盛大に噴き出してもらうぞ!」
甲斐はそう言うと、口を塞いでいた手を離し、
俺の顎を掴んで、強引に上を向かせた。
「おらっ、胃液の噴水、見せてみろやっ!」
鳩尾に強烈なボディブローを叩き込まれる。
今までと違い、胃が完全に潰れても構わないという威力の拳だった。
ドッムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
『んっぐ、おおおおおおおおっ!!!
うぐえぇっ!!!おっええええええっ!!!!!』
上を向かされた口から、胃液が噴水のように噴き上がる。
天井にまで達するほど飛んだ薄緑色の液体が、俺の顔へと降り注ぐ。
それを避けることは許されず、顔を上げたままで顔面で受け止めた。
『ハァッ………ハァッ………ぁ……ぁ……』
「どうだ、これが本当の腹責めってやつだ。地獄みてぇだったろ?
だいたい、オレに喧嘩を売るなんざ百年早ぇんだよ」
……俺はずっと考えないようにしてきたつもりだった。
甲斐が、リトルリーグから続けてきた野球を一旦離れ、
高二で監督の目に留まり更生するまでの間、バットを人に向けるような、
喧嘩に明け暮れる日々を送っていた元ヤンだったことを……
他の部員が、甲斐を前にすると委縮する中、
俺だけは同じ部活仲間として対等でありたいといつも思っていた。
でも無理だった……試合に負けるとストレスの捌け口として使われ、
やり返せたと思ったら、今みたいなさらに酷い仕返しがくる……
「うげえっ、オレの腕にも胃液がスゲェ掛かってやがる。
さっさと洗いに行かねぇと……」
甲斐がドアに向かって歩き出す。
その背後で倒れている俺の手に、冷たい金属の棒が触れる。
『……もう、たくさんだ…』
その冷たい金属の棒を握り締めた俺は、甲斐のあとを追う。
『……お前にとって…バットは人を殴る為の道具だったんだろう!』
そう叫び、金属バットを振りかざした俺が、
本当は一番、甲斐のことを元ヤンだという偏見の目で見ていて、
それが甲斐をイラつかせる原因になっていたのかもしれない……(完)